2021年6月16日をもって、通常国会が閉会となりました。今国会で成立すると見られていたLGBT理解増進法(以下、LGBT関連法案)は最終的に提出さえされず、廃案となりました。また同法案を巡る自民党内での議論において、醜悪なヘイトスピーチが撒き散らされたことも忘れてはなりません。
私たち一般社団法人Voice Up Japanは多様な個人の集まりです。年齢、国籍、性別、セクシュアリティを問わず、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが活動に参加しています。そういった性格の団体として、そして何よりも、差別は悪であるという倫理が、社会全体で当然共有されるべき規範であると考え、あらゆる差別に反対しています。
その立場から、今国会で同法案が提出・成立に至らなかったこと、そして、自民党内でLGBTQ+に対する深刻なヘイトスピーチが行われ、それによって煽動された差別が放置されている、という事態を非常に重く受け止め、ここに強く抗議の意を表明するとともに、一刻も早く、LGBTQ+への差別禁止・行政機関、事業者等に対する合理的配慮(*)の提供を義務付ける法律を制定することを求めます。
1. LGBT関連法案が廃案となったことについて
LGBT関連法案を巡っては、市民社会の間でもさまざまな議論が行われました。同法案に対する批判的な意見も多く、私たちも当初は成立に否定的な立場をとっていました。5月5日、私たち Voice Up Japanは【#LGBTQがいじめ差別から守られる法律を求めます】から提起された声明・署名に呼応する形で、同署名への賛同を呼びかけました。その際も次のようなLGBT関連法案に対する懸念を表明しました。
- LGBTQ+をことさら「理解の対象として異なるもの」とし「権利の主体として捉えていない」こと。
- この法案では、LGBTQ+を「理解する」主体はマジョリティーであり、差別の撤廃を達成することは不可能であるということ。
- 制定されるべき法律は「差別を撤廃し属性によって不利益を被らないようにする」ものであること。
しかしその後、超党派での協議により、差別禁止規定は含まれなかったものの、法案の目的及び基本理念に『差別は許されないものだという認識の下』という一文が追加される見通しとなったことを契機として、私たちはLGBT関連法案の成立を後押しする立場を取りました。修正された同法案の成立は、LGBTQ+と便宜的に括られているさまざまな属性を持つ人々の人権が尊重され、擁護される一歩になると考えたからです。
ところが、最終的に今国会においてLGBT関連法案は成立に至りませんでした。このような事態になったことに私たちは非常に憤慨しています。国会で働いている議員の皆様は、この国に住むさまざまな人びとから信託を受け、その職に就いているはずです。そのことを今一度、胸に刻んでいただきたいと心より願います。
さまざまな人びとからの信託を受けている以上、それぞれの議員は「差別を許さない」という認識を持った上で、その職責を果たす必要があります。「差別を許さない」ということは党派性の問題ではありません。それは人権を守るということであり、政治はその問題にこそ真摯に取り組む必要があります。LGBT関連法案は少なからず、その認識が反映されたものだったはずです。だからこそ党派を超えた議員の尽力があり、合意があったのではないでしょうか。私たちは、同法案の成立に尽力した議員を、その所属政党に問わず評価します。
しかし驚くべきことに、その認識を自民党の一部議員が拒絶しました。そして、自民党が党として法案の提出を見送るという判断を下したことにより、結果として、強硬な反対姿勢をとった一部議員に同調することとなりました。この判断は、超党派で合意したはずの「LGBTQ+への差別は許されない」という認識を反故にするものでもあります。
自民党が党として下した判断は反人権的であると指摘せざるを得ません。また、「LGBTQ+への差別は許されない」という当たり前の認識を、結果として拒絶したことに私たちは憤りを感じ、危機感を覚えずにはいられません。
2.自民党内で行われたヘイトスピーチについて
「差別は許されないものだという認識の下」という一文が超党派の協議で了承された後、自民党内で協議の場が持たれました。この場で行われたLGBTQ+に対する醜悪なヘイトスピーチに関して、私たちは一際声を大きくして抗議の意を表明します。
国会議員という立場にある人間がヘイトスピーチを行うことは、断じて許されるものではありません。国会議員はこの国に住むさまざまな人びとの代表だからです。加えて、公的な立場にある者が行うヘイトスピーチは、その影響力を考えても極めて悪質と言えます。
今までも幾度となく、自民党議員によってヘイトスピーチが行われ、その度に市民社会は批判してきました。しかし自民党はそれらの批判に耳を傾け、適切な対応をとってきたとは言い難く、今回も同様の道筋を辿っていると言わざるを得ません。
政党を問わず、所属する議員がヘイトスピーチを行った場合、その党は当該議員に対して厳正に対処すべきであり、加えて、煽動された差別を止めるよう対応することが必要です。
3.最後に
いかなる差別も許されてはならないのです。差別は、私たちが普遍的に保持している「恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」を踏みにじるるからです。
今回、このような形でLGBT関連法案が廃案になったこと、自民党内におけるLGBT関連法を巡る議論の中でLGBTQ+に対する醜悪なヘイトスピーチが行われたことは非常に受け入れ難いことです。しかしこの間、さまざまな人びとがさまざまな形で「差別は許されない」と声を上げたことに、私たちは励まされてもいます。
私たちは今後も、LGBTQ+への差別を禁止し、行政機関、事業者等に対する合理的配慮(*)の提供を義務付ける法律の一刻も早い制定を、そして差別を許さない社会の実現を今回声を上げた皆さまと共に求めてまいります。
2021年6月16日
一般社団法人 Voice Up Japan
*合理的配慮とは〜
障害者差別解消法から援用され、LGBT法連合会や、野党合同の『LGBT差別解消法案』で使用されている概念
詳細は ーLGBT法連合会が目指す「LGBT差別禁止法」とはー をご覧ください。
(代:尾崎淳一)