繰り返されてはならない、オリンピック組織委員会前会長の女性蔑視発言

オリンピック組織委員会の前会長の女性蔑視発言に対して、山本和奈さん、能條桃子さん、福田和子さんが2月4日、署名を立ち上げ、1週間で15万7千もの署名を集めた。一週間後、森喜朗氏は引退を宣言。Voice Up Japanの設立者が今回の署名のこと、そして日本の差別への考えをメディアチームに話してくれた。

2月12日「女性は会議で話しすぎる」などの発言した森喜朗氏が辞任。「話過ぎる」とされた女性たちが発言の責任を求めて行動を起こしていた。2月4日、「女性蔑視発言『女性入る会議は時間かかる』森喜朗会長の処遇の検討および再発防止を求めます」と題された署名に、15万7千近くもの人々が賛同した。坂本龍一さん、水原希子さん、上野千鶴子さんといった多くの著名人も同署名に名を連ねた。Voice Up Japan代表の山本和奈さんは署名活動の中心となって活動したメンバーの一人だ。署名活動に参加した理由を知るため、メディアチームは和奈さんをインタビューした。

責任を問うための法律

 「日本には包括的差別禁止法がありません。それが差別的考えが蔓延する背景を作っていることは間違いないです。」法律の不在が差別的行動を助長することを強調しながら、和奈さんは語る。日本憲法の第14条には、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と記されている。日本の法律の基盤は政治的、経済的、社会的関係における差別を禁止しているということは確かだ。一方で、日本には包括的差別禁止法がないため、差別的行動が許容されている面がある。だからこそ、Voice Up Japanでは包括的差別禁止法設立チームが立ち上げられた。

「他のどのOECD国でもこんなにもたくさんの有力な政治家が性差別・人種差別的発言をすることはありません。もし包括的差別禁止法があれば、企業もそれに準じた規則を作ることになると思います。」と和奈さんは主張する。法律が設立されれば、差別的な発言をした人物は大衆からの“批判”を受けるだけに留まらず、発言に対する責任を取る必要性がでてくる。「女性は会議で話し過ぎる」や「ドレッドロックの人は麻薬を所持していることが多い」などといった発言は、批判されるだけで、実際に責任追及されることはない。また、差別的な発言を“表現の自由”だと擁護する人いて、それが結果的に日常生活での構造的抑圧を増幅してしまっている。 

“女性の一番長い発言でも男性の一番短い発言より短い”

「森氏は何の根拠もなく(女性蔑視)発言をしました。実際には女性よりも男性の方が会議で多く発言するという記事や研究も多くあるというのに。」と和奈さんは言う。女性が話し過ぎる、という批判は日本だけでなく世界中で女性を貶めるために使われてきた。だが、バーバラ・アイケンズ、ジーン・アイケンズ氏による研究はその批判とは全く逆の結果を示している。同研究は、女性の一番長い発言でも男性の一番短い発言より短いことが多いと証明した。女性に対する偏見が事実とは異なると証明されてもなお、偏見が女性たちの人生にもたらす影響は容易に看過できない。「森氏の発言は彼の偏見と女性を見下した考えからきています」と和奈さんは語る。

「とある高校生の方から、小学生のころ、担任の先生が『女の子がやるべきことではないから』と言って女子に学級委員長をやらせなかった、と聞きました」和奈さんは偏見がいかに幼いころから女性の人生に影響するかについて説明した。「特にの立場が上の人たちがこういった偏見を肯定していると、人々は女性はリーダーになるものではないという考えが当然のことだと思うようになってしまいます。」と和奈さんは続けた。

 15万の署名とデモ運動

「ここ10年間ずっと同じような発言を聞いていたので、何かしければと思いました。この先の10年間も性差別をする政治家について不満を言うことになるのは嫌です。」署名活動を始めた理由について説明しながら和奈さんは言う。女性蔑視発言の後、森氏は15万人以上の人々の反発によって責任を問われた。署名は2月4日、森氏の発言後に始められた。#なんでないのプロジェクト代表の福田和子さん、No Youth No Japan 代表の能條桃子さん、Voice Up Japan代表の山本和奈さんなど、ジェンダー平等のために社会活動をしてきたことで知られる数名が署名の発起人だ。同署名は以下の三つの点を要求した:

  • 森会長就任に合意した3団体と東京オリンピック委員会が同氏の行動を適切に対処し、同氏の継続について必要な措置を講じること
  • 東京オリンピック組織委が差別発言に対するゼロトレランスポリシー(一切寛容しないこと)指針を取り入れること
  • 東京オリンピック組織委に関わる全理事の40パーセントを女性にすること

署名と同時に、2月9日には日本オリンピック委員会本部の前でデモが行われた。デモでは「女性蔑視の五輪はいらない」、「森喜朗の女性差別発言許せません」、「オリンピックよりコロナ対策を!」といった声が上がっていた。

森氏の辞任

2月12日、森氏は会長職から辞任することを発表した。森氏の辞任は日本の何かしらの変化をもたらす足がかりになるかもしれない。差別発言をした人物がしっかりと責任を取らされたのだ。差別的な発言や行動をした人がちゃんと責任を問われる新しい時代が日本に来るのだろうか?

「一週間で15万もの署名を集められたので、本当に何かできた、という実感がありました」署名活動と森氏の辞任について和奈さんは語る。「再発防止のための明確な計画や目標はあるのか、どんな規約をつくる予定か、といった公開質問状も手渡しました。オリンピック組織委は男女共同参画推進チームを設立する、と公表しましたが、男女共同参画推進チームとはいったい何なのか、ということが問題です。」オリンピック組織委の行動が本当に変化将来変化をもたらすかどうかは疑問の余地があるが、公開質問状は2月23日に返答されることになっている。