『クィア・アイ in Japan!』:ポジティビティと日本

By: マルティナ カヴァヤロ 
翻訳:遠藤理愛

アメリカのリアリティ番組『クィア・アイ』は、料理、美容、インテリア、カルチャー、ファッション、それぞれの専門分野のプロである、通称ファブ5のゲイ5人組が、人生に悩む人の相談にのり、新たなスタートを切る手助けをする、涙と笑いの大人気シリーズだ。2003年にシーズン1が別タイトル(Queer Eye for the Straight Guy)で始まったが、新キャストを迎えたリブート版が、より多様性を意識した新タイトルで2018年にスタートし、アメリカではカルト的な存在になっている。そして元祖『クィア・アイ』から10年以上経った今年11月1日より、日本を舞台とした『クィア・アイ in Japan!』がNetflixで配信されている。

いったいどうやってアメリカのテレビ番組が日本社会の問題点を取り上げるのか。日本の視聴者に西洋風のポジティビティはどう影響するだろうか。この記事では、日本では比較的新しいポジティビティの概念を広めようとするアメリカのテレビシリーズのポテンシャルと限界を探る。大抵、自己愛の概念が普及している米国の番組が日本に上陸すると、東アジアの国のステレオタイプが助長されてしまう。そういう意味では『クィア・アイ in Japan!』は革新的ではないが、期待を上回る作品といえるだろう。

今シリーズのテーマは「日本の休日」だが、番組は満開の桜など絵に描いたような日本の休日を語るのではなく、知られざる日本社会の課題をアメリカの視聴者に紹介していく。年齢、体重、ゲイであること、パートナーとセックスレスであることなど、幅広いトピックが扱われるが、エピソードの構成はだいたいいつも同じだ。ファブ5と呼ばれる5人組(アント二・ポロウスキ、ジョナサン・ヴァン・ネス、ボビー・バーク、タン・フランス、カラモ・ブラウン)とモデルの水原希子が、まずビデオをみて、主人公であるクライアントの生活習慣やニーズを知り、その後直接会っておしゃべりをしたり家の中をチェックしたりする。親しんだらその人と一緒に外出し、ショッピングをしたり、髪を切ったり、憧れの人に会いに行ったりする。家に戻ると、主人公の自己改革を完結するかのようにインテリアが真新しくスタイリッシュにリノベされている。こうして主人公たちはその後の大きな出来事(海外から来る彼氏とのデートなど)のために心の準備をする。

今シーズンは、エピソード1の洋子の物語で始まる。50代で看護師の彼女は、自分が女らしくないと感じ、自信を持てずにいる。若くてかわいいことが美の象徴とされ、30歳でアイドルが引退するような社会では、洋子と同じような心境の人は少なくないだろう。しかし日本のポップカルチャーではそのような現実は描かれず、彼らの生きづらさは無視される。ファブ5は彼女に新しい髪形を与え、スタイリッシュな服を着させ、近藤麻理恵のときめく美とはかけ離れた状態の彼女の家の、整理整頓に取り掛かる。最後に洋子は、美しさは年齢によって決まるものではなく、自分は他人を助けることが好きな価値あるいい人間なのだということに気づく。

エピソード2は若いゲイの男性、寛の話だ。彼は自分らしくいられるための自信と勇気を求めている。カナダに留学した時にある男の人を好きになったが、日本に帰ってきてからは安心して暮らせず、新宿2丁目から一歩出た外の世界で、どうやって力強く生きていけるか、ファブ5のアドバイスを求める。そこで5人は、僧でありメイクアップアーティストでもある西村宏堂を呼び、彼は寛に、どうやって自分のセクシュアリティを受け入れられたか、そのポジティビティを駆使して僧としてどう平等の概念を広めていったか、自身の体験を共有する。寛は新しい自分のファッションスタイルをみつけるだけでなく、ゲイであることへのプライドと自信を持つようになり、作り方を教わった飲み物で彼氏を迎え入れると、彼を家族とディナーに連れて行った。

エピソード3では、若い頃体型を理由にいじめられた経験で自信をなくした若い漫画家の香衣が、ファブ5に励まされ、ネガティブな自己像を克服していく。可能性に満ちている香衣は、自分はそれに値しない人間だと思い込んでいる。そんな彼女に自信を持たせるために、国内外で絶大な人気を誇るモデル、芸人、インフルエンサーの渡辺直美が、自身の経験をもとにアドバイスをしに香衣に会いに来る。日本のボディ・ポジティビティの先駆者である彼女も、最初は体型を笑いものにされていたが、徐々にそのような侮辱的なコメントを自信に変えていったという。

「他人のネガティビティを自分の力に変えていったんだ。」

ディープなお話と柔道体験を経た香衣は、徐々に自己肯定感を高めていく。得た勇気を胸に、自分のアートを他人と共有しプロとしての道を切り開くため、また母親と心を通わせるために、自身の作品の展示会を開く。

そんな『クィア・アイ』は一見、日本に西洋的な価値観を持ち込もうとしている5人のアメリカ人やイギリス人の話にみえるかもしれない。しかしクライアントには、同じ文化に慣れ親しんでいて同じ言語を話せる仲介役の人がついて手助けをする。例えば、西村宏堂は寛が英語を理解できるから英語で話すが、渡辺直美は香衣と日本語で話す。また、水原希子がシリーズ中ずっとガイドを務めたことも、ストーリーの極端な西洋化を防いだ一因かもしれない。

複雑で難しい社会問題を扱っている今シリーズだが、ファブ5のポジティブさのみがそれらを解決できるわけではない。彼らがクライアントのコンプレックスに対し提示できるのは、一時的な満足感や物質的な解決策だからだ。しかし西洋のメディアが描く日本のイメージやテレビでの日本文化の扱い方は少しづつ変化してきており、『クィア・アイ in Japan!』は異文化尊重に向けた第一歩と言えるだろう。気軽に日本社会の課題を知ることができるリアリティ番組としてぜひ楽しんでいただきたい。