バネルジー トリシット 著、神沢希洋訳
コロナによる孤立と収入減少で学生たちの生活は今とても不安定になっている。Voice Up Japanは東北大学の学生にアンケートを取り、コロナが学生たちのメンタルヘルスにどのような影響を及ぼしているか調査した。
2020年4月、東北大学はCOVID-19感染症拡大に影響を受けている学生に向けて4億円の緊急支援策を発表した。しかし、2020年12月にあしなが育英会が経済的に支援している全国1,690人の大学生向けに行った調査によると、回答者の25%が退学を考えているという。自宅に閉じこもり孤立する学生が増え、その上学生の収入も減少している中、Voice up Japanは東北大学の学生にアンケートを取り、コロナが学生たちにどんな影響を与えているか調べた。
2020年4月の始め、コロナウィルスの第一波による感染者数増加を受けて、東北大学の大野英雄総長は行動指針をレベル3に引き上げた。そのため、授業はすべてオンラインで行われ、課外活動は全面的に禁止になり、他にもたくさんの制限が学生に課されることになった。キャンパス内での研究も制限されていたため、2020年春に入った新入生たちにはほとんど交流の機会が無かったといえる。
図01:(左)教室ごとに置かれている消毒シートとQRコード、(右)ソーシャルディスタンスを示す洗面所前のシール
この発表から約2週間後、緊急学生支援の詳細が公開された。学生へのWi-Fiレンタルや、学部生の学業や日常生活を支援する「ピア・サポーター」として2,500人の学生が雇用されることが発表された。また、学外でのアルバイト依存からの脱却を促し、家庭の収入が少ない学生を支えるため、授業料の支払い猶予や緊急奨学金などのオプションも発表された。
大学側からの金銭的な支援など目に見える形での支援がある一方で、学生のコロナ禍における心の健康に対する意見は様々だ。先月、日本を含む8か国からくる28人の学生を無作為に調査をしたところ、半分の学生がコロナがメンタルヘルスに影響を与えたと答えたが、そのうち8人のみがそのことについて誰かに相談をしたという。一人の日本人学生は“一人の時間が増えたせいで前より将来に不安を感じるようになった”と語る。学生たちは家での時間が増たことで、やる気がなくなり、気分が塞ぐことが増えたと報告している。それに加え、留学生にとっては自国に帰れないという状況もある。
アンケート回答者の半数が大学から主に経済面での支援を受けたと答えたが、この先の数か月で大学側に何を望むかについての回答は多様だった。
試験がオンラインに移行していく中、オンライン形式では監督ができないため、試験が例年に比べて難しくなったと報告されている。何人かの学生は試験問題をもっと簡単にしてほしいと語っており、成績や単位について不安に思う声も上がっている。また、数人の学生は精神的サポートの必要性を強調した。インドネシア出身の一人の学生徒は言葉の壁がないカウンセリングサービスを望んでいると言う。その学生は4月から大学外にて精神科医に会っていることも共有した。マレーシアから来たもう一人の学生は、コロナにも対応した進路相談の選択肢を増やして欲しいと語った。
2020年の7月と8月に大学の学生支援・特別支援センターは新入生を対象にアンケートを取った。全新入生の56.3%にあたる1,381人の回答者のうち、20%が不安な気持ちや気持ちの落ち込みがあると訴えた。学生の不安の主な要因には、課題に取り組むことや、授業の時間割を組み立てることがある。日常生活においても、運動不足になることや、遊びに出かけられないこと、課外活動ができないことが学生に不安感を与えていると報告されている。その上、61%の学生が大学への意欲が下がったと感じており、同時に31%の学生は変化が無いと答えた。また、54%の学生が東北大学への所属感が持てないと答え、持てている学生は21%しかいないことが分かった。
図02: 学業における不安の原因
図03: 日常生活における不安の原因
大学側が学生が大学からのどのような支援を望んでいるのか調査したところ、学業のサポートを望む学生が61%、課外活動のサポートを望む学生が56.2%と、Voice Up Japanが行った調査と似通った結果になった。回答した新入生のうち、13.8%のみが経済的支援を希望していた。この結果は広がる所得差が公立大学への進学率に影響を与えていることを考えれば、当然ともいえる。2013年のジャパン・タイムズに掲載された東京大学の調査によると、高所得の家庭の子どもの20.4%が公立大学に進学している一方で、低所得(年収400万以下)の子どもは7.4%しか進学していないということがわかった。この結果は大学にいる学生がパンデミック下でも比較的収入が安定していることと関係している。
東北大学をはじめたくさんの大学が感染症拡大への新しい対策を見出しつつある一方で、ほとんどの大学には対策のための十分な資金を持ち合わせていないことにも留意すべきだ。全国で多くの学生たちが授業料の引き下げを求めるも、却下される憂き目にあっている。東京のような都市部では継続的な人員削減の中で高い家賃を支払い続けなければならないストレスもあり、事態をさらに悪化させている。その一方、大学側もすべての活動をオンラインに移したり、アナログ書類を基盤とした事務作業を減らしたり、教員や職員の労働力不足問題など差し迫った課題に追われている。2020年度の新入生が二年生になり、日本がコロナの第三波を迎えていることから、これらの問題がこれからどのように対処されていくのか注目される。