石川幸子| 翻訳:澤田初音
イラスト:エミリー・ハワード
夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する
– 民法第750法
日本での結婚は、結婚当事者二人ともの同姓を強制する法律が1896年にできました。現在ではそのような法律を施行しているのは日本のみです。2020年の今、いくつかの訴訟や全国的な請願にもかかわらず、法改正に関する国会での新たな動きはないようです。
「若くして結婚しました」と話し出すのは、選択的夫婦別姓・全国陳情アクションの井田奈穂事務局長。「名字を変えたくなかったのですが、家族や周りからは『女性だから変えた方がいい』と言われました。離婚した後も、その名字で10年以上キャリアを積んできたので、そのままでいることにしました。数年後、私は新しい人と出会いましたが、子供たちも私も名字を変えたくなかったし、新しい夫にも元夫の姓を名乗って欲しくはありませんでした。そのため、事実婚を選択することにしました。しかし、彼が重大な手術を受けることになったとき、病院は私たちが法律上の婚姻関係にない限り、彼の書類にサインすることを許可してくれませんでした。したがって、私は法的に結婚してまた名前を変えるしかありませんでした。たくさんの書類を書かなければいけず、さらにまたもや私の法律上のアイデンティティが変わってしまった。打ちのめされた気分でした。」
これはVoiceUpJapanにお伝えいただいた話であり、結婚しても名字を変えたくない男女の権利を保障するための全国運動へと発展するきっかけになりました。
このように名前を残すためだけに行ったり来たりで疲弊していた井田さんは、”結婚を機に名前を変えることにも葛藤している人がたくさんいた”ツイッターに手を伸ばしました。何人かの人や活動家に会った後、自民党国会議員の松本文昭氏(東京都中野区)に相談することにしたと言います。
“法改正を望むのであれば、請願書を作成して書面で意見を集め、地方議会を通じて国会に送る必要があります。これだけ多くの人が法改正を望んでいることを示すことができれば、国会議員はこれが考慮しなければならないことだと気づくでしょう。” 彼の助けを借りて、ついに井田さんたちはは必要な情報と勢いを集め、2018年12月には、「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」を作り、初めての公式請願書を国会に送ることに成功しました。現在、約200人のメンバーを擁する「全国陳情アクション」の他にも、民法15条と闘って変化を求めるために、いくつかの団体が立ち上がりました。
69%が別姓を認めることに賛成
2015年、最高裁は、今日に至るまでの何度かの控訴や訴訟や、国連の「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(CEDAW)」があるにもかかわらず、日本の民法750条を合憲とする判決を下しました。
朝日新聞が今年1月に2166人に電話でおこなった調査によると、別姓を認めることに賛成の人が69%だったのに対し、反対の人は24%(コメントなしは7%)でした。また、すべての年齢層で女性の7割以上が賛成していました。
さらに、2017年に日本で行われた60万6866人の結婚調査では、妻の名前を名乗る男性は4.1%にとどまっていることが明らかになりました。つまり、書類手続きの負担は女性の肩にかかっているということです。以下がこの書類の代表例です
- 戸籍謄本
- 住民票
- ID関係 (パスポート、マイナンバーカード、運転免許証、etc)
- 銀行口座 (全てのカードの更新と全ての自動システムの更新)
- 携帯電話
- 年金サービス
- 公的・民間保険(健康、生命など)
- 職場の書類
- 上記の手続きのための新しいハンコの取得
これらの書類を更新するためには、役場や銀行などのそれぞれの場所に自ら行くことが必要であり、通常、平日の勤務時間中にしか行くことできません。これは、月曜日から金曜日の9時から6時までの自分の仕事とは両立ができないので、手続きをしなければいけない女性は有給休暇を取ることを余儀なくされています。いくつかの変更はすぐに終わりますが、新カードの発行のように、処理に数週間かかるものもあります。例えば、新しい健康保険証が必要な場合、どのような医師の予約でも、後で払い戻しを受けるために(30%の代わりに)全額を支払わなければなりません(これは、後でより多くの手続きを必要とします)。
名字を変えるのに時間のかかる手続きや制度の障害以外にも、姓を変えたくない正当な理由はたくさんあります。「変えたくない」という正当な感情を抜いても、女性の中には名字を変えると特許管理から海外出張など、法律上の氏名が仕事で使用しているものと合わないために、仕事や学業でのキャリアに支障をきたす人もでてきます。
これは、会社によっては、通称使用の可能性を提示しているからです。通称使用となった場合、法律上では氏名が変更されていても、前の名字を使い続けることが許される場合があります。これにより、同僚とクライアント(異なる名字に慣れていないかもしれない)の間のコミュニケーションが容易になります。しかし、残念ながら法的には認められていないので、企業によっては2つの名字(実用的なものと法律的なもの1つずつ)の使用を拒否されることもあります。
これまでも法改正の試みは何度も行われてきました。直近で大きな反響を呼んだのは、ソフトウェア会社Cybozuの青野義久社長ら4人が2018年に東京高裁で起こした訴訟です。彼らの主な主張は、国際結婚では夫婦同姓を守らなくてもよいのに対し日本国民には選択肢がなく、これは日本国憲法第14条(「すべて国民は、法の下に平等であって、[…]差別されない」)に反するというものでした。悲しいことに、2019年には敗訴しましたが、青野氏は裁判所の判決を不服として控訴する方針を明らかにしました。
法律婚とは異なり、事実婚では、夫婦の同居を正式に登録することができます。これは、自分の名前を保持し、他人の戸籍に入らないという自由を与えてくれますが、多くの場合、正式なものとはみなされず、合法とさえみなされない領域に留まっています。そのため、法律婚の利点の多くは、事実婚には適用されません。例えば、相続税の免除、所得税の配偶者控除、共同銀行口座や住宅ローンの資格がないことから、海外で配偶者のVISAを取得できないことまで、多岐にわたります。
父親が子供の出生証明書に登録されていない限り、親権は自動的に母親に行くので、事実婚のカップルは子供を持つことになると、困難に直面します。さらに、多くの場合、彼らは養子縁組のための資格を持っておらず、また、法律上で結婚しているカップルは得られる、不妊治療のための助成金を得ることができません。
私自身、この問題で悩んだことがあります。私は日本人であるため、結婚するときには、夫と私が夫の姓を名乗ることにしました。その決断を特に後悔しているわけではありませんが、そもそもその選択肢がなかったことが悔やまれます。私は以前、「旧姓」で本を出版したことがありますが、それが「ペンネーム」にならざるを得なくなったのです。アイデンティティの分裂には利点もあります。特にオンライン上での活動だったり、確立されたものに抗議している時には。ですが、個人的には、昔の自分が別の存在になったと感じるのは、心が痛みます。
「選択的夫婦別姓:全国陳情アクション」について:
公式HP: https://chinjyo-action.com/
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公式フェイスブック:https://www.facebook.com/選択的夫婦別姓全国陳情アクション-225637361708503/
公式Note: https://note.com/chinjo_action
参考文献:
https://camp-fire.jp/projects/217790/activities/120591#main
https://note.com/chinjo_action/n/na83b52044af5
http://www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?id=2252&vm=2&re=02
http://www.asahi.com/ajw/articles/AJ202001280046.html