日本の性的同意年齢:青少年は法と指導によってエンパワメントと保護をされているのか

文章・通訳  アチュクバシュ大島アイシェ遥

アチュクバシュ大島アイシェ遥
事前の警告:この記事では性的虐待・暴力を対象とする法律について話します。

「50歳近くの自分が14歳と性交したら同意があっても捕まることになる。それはおかしい。」

これは立憲民主党所属の衆議院議員、本多平直(57歳)が同党内で行われた「性犯罪刑法改正」ワーキングチームの会合にてした発言だ。日本の性的同意年齢について話し合う、いわゆる勉強会でもあった会合中に、性的同意年齢の13歳から16歳への引き上げを求める教授等に反論する際に放った言葉でもあった。この発言が物議をかましている今、日本の性的同意年齢、そして刑法においての性的虐待と暴行の定義が見つめ直されつつある。

私は先月、二人の学者を同意する能力においてなぜ、年齢が重要視されるのか、そして青少年の効率的な保護が何を必要とするのかについてインタビューした。島岡まな教授(大阪大学院法学研究科)は日本刑法、そして刑法とジェンダーの交差を専門とし、立憲民主党の勉強会に参加していた一人として、今回の議論の中心人物でもある。堀井穂子博士(Van Vollenhoven Institute for Law, Governance, and Development (VVI)・ライデン大学 / 神戸大学)は社会法学を専門とし、日本、オランダ、インドネシア等、複数の国における児童婚や性的同意年齢について比較研究及び事例研究を行っている。 

この記事では性的暴行を対象とした日本の法律に関する基本的な事実と共に、二人の専門家の意見と見解を並べていく。

性的同意年齢とは、一人の人間が性行為に同意をする能力を持っているとみなされる年齢を指し、その同意は法において有効とされる。同意年齢より幼い子供が性的行為に関わったとき、それは性的虐待または暴行とみなされる。それには未成年者を、性的虐待や幼少期に行なう性行為によって引き起こされかねない人権侵害や成熟過程への悪影響から守る、という目的がある。

日本では未成年への性犯罪を対象とする複数の法律が存在する。それらは:

(1)  刑法は性的同意年齢を13歳と定め、処罰可能な性行為を「強制わいせつ」と「強制性交等」の二つの部類に分けている(条項全文は最後のノートを参照)

(2)  児童福祉法は「児童に淫行をさせる行為」を第三十四条において禁じている(3)  各都道府県の青少年保護育成条例の淫行禁止規定は未成年を標的とする「淫行」を禁じている。

裁判が行われる際に裁判官等はこの三つの法律によって無罪・有罪判決、そして刑罰を下すのだ。被害者が13歳未満だった場合、「暴行脅迫」の証拠は必要とされず、それは強制的な行為とみなされ、第176及び第177条によって刑罰の対象とされる。これら法律の後者二つは未成年全者(18歳未満、よって13歳以上をも含む)を保護対象とするが、刑罰は比較的軽い。

刑法の性犯罪に関する条項は2017年に、制定された1904年、つまり一世紀以上前の明治時代以来初めて、改正された。2017年度の改正以前、第177条は113年間途切れなく以下の様に示していた:

(強姦)暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

改正後、現在2021年7月、改名された条項は以下の様になっている:

(強制性交等)十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

比較すればわかるように、性別を特定する「強姦」という名称が「強制的性交等罪」に変えられ、被害対象が性別を問わない文言に変わっている。そして強制性交とみなされる行為の種類が増やされ、法定刑の下限が懲役3年から5年へと引き上げられている。多くの人によって歓迎された改正内容ではあったが、性的同意年齢が変わることはなく、それは今年117年目も13歳未満で立ち止まったままだ。その年齢の子供を思い浮かべやすくするためにも、平均的な13歳の日本児童がまだ中学生であり、それは義務教育を修了するまでまだ1、2年残っている状態であることを覚えておこう。

「日本の法律は比較的、変わらずに今に至っており、かなり保守的です。」と堀井博士は説明する。「変化は難しいとされます。女性の人権や結婚、性などといったトピックは保守派にとってセンシティブなものなので、特に変わりにくいです。」昨今の同性婚や選択的夫婦別姓にまつわる葛藤にも共通するものがある、としめす。「似たような理由で、法律が変わらないでいます。」と加える。

Image 1: Discussing the Japanese Penal Code with Dr. Horii. 

画像1:堀井博士と刑法について話している様子

現在の刑法のあり方に対する批判は同意年齢とは別に、他にもある。日本初の性暴力サバイバー組織であるとされるSpring(一般社団法人)によると、数多くの課題が残されている。例えば、強制性交および強制わいせつ犯罪に与えられている短い公訴時効(順番に10年、7年)、地位関係性を利用した性行為の規制の欠如、そして刑法が「強制モデル」に基づき、強制性交が成立するために暴行脅迫の証拠を必要とさせていること等が挙げられる。

強制性交やその他の性的暴力を対象とする法律には「強制の有無」に基づくものと「同意の有無」に基づくものといった2つの主要モデルがみられる。第176条と第177条の文言からわかるように、日本の刑法は「強制モデル」を使用している。「強制モデル」では「暴行脅迫は無いが被害者が精神的または物理的な理由で同意できない状態である」場合に適用できていないと指摘する人権団体や性暴力被害者組織の批判によって、「同意モデル」への国際的な移動もみられる。

「もっとも遅いぐらいのに。」と、この国際的な動きと2017年度の改正を振り返り島岡教授は言った。「世界では70年代くらいから、改正の動きが始まり、自己決定権に反しているかどうかに焦点がシフトしていった。私は当然、性交同意年齢も13歳なんて低いから、15・16歳に上がると思ったし、暴行脅迫だけだと今までと変わらないから、もっと色々な形態が入ると思っていた。地位関係を利用したものだってもっと広がると思っていたら、看護者という非常に狭く(親戚さえ入らない)主体が限定され、そこだけは18歳未満でも同意の有無を問わずに強制性交等罪が成立する、という179条看護者性交等罪だけが成立した。」

Image 2: Discussing the age of consent and 2017 revision with Prof. Shimaoka

画像2:島岡教授と性的同意年齢、そして2017年度の刑法改正について話している様子

これらの条項を形づけた1907年、明治時代の社会文化的背景について聞くと、島岡教授はこう述べた:「当時は家父長制度、家が一番重要な単位。しかも男性にしか法律能力がなく、男性のみによって作られた法律です。2017年に改正されるまで強姦罪は女性しか被害者になれなかった。」

教授は更に、法律の文言と通説が当時の家父長制的要素を反映していることに触れた:「凡例通説から、(暴行脅迫が文言なので)ものすごく強い暴行脅迫があって、女性が必死に抵抗しないと強姦罪は成立しない、と言われてきた。」教授はこれが今でも一部に残っている考えだと述べ、1907年の刑法が守ろうとしていたものについてこう提言した:「当時の家父長制を前提に考えると強姦法が守っていたのは女性の人権とか性的自己決定権ではなく、(そんなものなかったし、権利能力さえなかったからそれを守っているはずではなく)家の血統だった。男系の血統が大事だから、妻が第三者から違う血を入れられそうになるとそれが強姦ということになり、必死に抵抗して「家」を守らなくてはいけなかった。家を守れないような妻は保護するに値しないと考えられた時代、抵抗義務が背景にあるから、抵抗があったかどうかというのは凡例でずっと裁判官がみる。」

言わずとも、刑法が制定されてから121年の間、日本のセクシャリティと婚姻の文化的、お及び社会経済的事情は大きく変わってきた。しかし今回の本多議員の発言問題が示したように、大人から見た青少年の性に関する問題的な思い込みが未だに残っている。二人になぜ、年齢が同意する能力に関係してくるのか、そしてなぜ「#性的同意年齢の引き上げを求めます」ハッシュタグでみられたように13歳では幼すぎるという指摘が多いのか、伺った。島岡教授は

「性的同意をするため、それが有効になるためには、内容をきちんと理解する力がないといけないから、ある程度の成熟が必要。中学生は、知識はあるかもしれないが、色々な意味で弱さがある年齢。なぜかと言うと、国が中学生までは教育を受けさせる義務を作っており、きちんといろんなことを学ばせなければいけないという年齢だし、その間は労働も認められておらず、経済的自立もできない。きちんとした性教育が行われていない一方で、SNSやネットでポルノの情報だけバンバン入ってくる。そういう国では余計、ずっと危険に晒されているので、保護しないといけない。」と説明し、それらを踏まえ総合的に判断すると、どうしても13歳は低すぎると言った。

堀井博士は性的同意年齢の引き上げの裏付けとされる、調査結果に指をさした:

「傍証の多くは、被害者が経験する精神的外傷と被害、後からみられる影響にある。性的虐待の被害者である児童が被害を直ぐに報告することがあまりない中、後からその被害を認証することを多くの調査が確かめている。」と、これらの証拠が保護処置を促す動きへつながっていると言った。

自然に他国の法律や処置が気になってくるので、堀井博士に国際的にみられる法律の在り方について聞いてみると、多様なうえに変化の多い状況が見受けられると言われた:

「性的同意年齢は国によって違い、時と共に大きく変わってきている。ここ数十年にわたって、性的同意年齢を引き上げる国際的な傾向がみられる。オランダは同意年齢かつ状況に特化する規制をしている。非常に具体的で細かい条件によって、児童が同意できないとみされる。例えば、もし子供が加害者と学生教員の関係であるとすれば、そこには力関係があるとされ、同意年齢は18歳とされます。また、いくつかの国では年齢差が大きくない場合は刑法適用を免除するといった条項もあります。」

よく「国際的標準」より遅れているとされる日本であるが、堀井博士にそのような標準があるのか、法律を作りにあたって考慮されるべき要素とは何か伺った。すると堀井博士は「児童の権利に関する条約(CRC)」についてこう説明した:「CRC は性的同意年齢を制定していないが、子どもの能力の発達を認めている内容。これはCRC下の抽象的な概念であり、政策決定が子どもの意思と選択を尊重すべきだと制定する。しかしこれは実践するのが非常に難しいため、あまり適用されていない。選択とエンパワメントより保護に集点が置かれている。保護と選択・自己決定権の尊重の間でジレンマが生じている。」

エンパワメントと保護の間でのジレンマまたはバランスといえば、日本の青少年はエンパワーされているのだろうか。というのは、彼らは的確な情報を伝えられ、その情報に基づいた決定を下した上で生活ができているのだろうか。ここでキーワードになるのが「性教育」だ。日本では性教育が文部科学省の指導要領によって性行為そのものが「受精・妊娠を取り扱うものとし,妊娠の経過は取り扱わないもの」とされてる。加えて避妊と人工妊娠中絶も取り扱われないものされている。セックスが的確な情報と健康的なコミュニケーション次第、リスクと影響が伴うものであるという認識が薄い現状だ。

性教育が青少年のエンパワメントと保護において持つ役割について、島岡教授はご自身の子どもがフランスで受けた性教育と日本の性教育を比べながらこう言った:

「子供が小学校、低年齢から性教育を受けている。その頃は恥ずかしさがまだなくて、フラットな気持ちで習えるからいい。中学生くらいになると、男女同じの部屋で恥ずかしくなってしまいがち。日本では性教育が『生殖教育』になってしまっている。先進国では性教育はむしろ対等な関係をどう築き上げるかというジェンダー教育でもある。そういう観念を植え付けると、対等な恋愛とはどういうものか、力関係があってはいけないんだと自然と若い時から分かってくる。そうすると被害者にもならないし、そういう人がおじさんになっても、中学生に手を出すこともなくなるわけで、すべてがつながっている。」

堀井博士は、前述した「能力の発達」を踏まえてこう述べた:

「良い性教育が、子どもにリスクと影響を教えられていたら、子どもの能力の評価も変わってくることが可能とも言えるかもしれない。しかしオランダのとは対照的に、未だに日本の性教育は、(明示的な性教育を規制する指導要領によって)正式に明示的ではないもの。

複数の調査が示しているのは、セックス、生殖健康や避妊具に関するコミュニケーションがよりオープンだと、望まない妊娠が減るということ。セックスについてオープンなコミュニケーションが、セクシャリティのために健康的な環境を整えるのです。」

最後に、現在の社会に欠けているものと、個人が出来ることが何かあるか聞いた。堀井博士は青少年と同意をテーマとする、間違った思い込みに疑問を投げかけ検討する直接的かつ実直な話し合いが無いことに批判的なうえ、日本を他国と比較するにあたってもっと情報に基づいたアプローチを求めた。

「 (本多議員の発言は)彼が50代と14歳の間での同意の概念を決め込み、疑問に思っていないことが問題とされるべき。子どもの同意という概念について十分な議論が公共でされていないと感じられる。性的同意年齢について話すには、考慮すべき色々なものがある。『他の国では16だから、16にするべき』と簡単に言うべきではないと思う。いわゆる『先進国』で同意年齢が16歳であることは、その国一つ一つの法的背景の一部として理解されるべき。そうしたら、皆で子どもを望まない性行為から守る同意年齢がいくつなのか議論し、話し合うことができると思う。」

島岡教授は日本で人権への意識の低さを強調し、二部構成の戦略を提唱した:

「下からの意識改革と上からの制度改革の両面から変えていかなくてはならない。制度改革を例えるならば、三浦まりさんの女性議員を増やす運動。女性議員が増えれば法律ももっと平等なものになるだろうと期待している。意識改革のほうでは、大学教育で無意識の偏見のオンライン研修を教員、職員と学生全員に受けさせようという運動がある。」

「一人とか少数がやっても社会は中々変わらないから、皆さんがそれぞれの場で出来ることをやってかないとならない。一人でもそういうことに鏡面する人を増やして、運動を広げていくしかない。」

最善の処置を講じ、青少年に安全な環境を設け与え、彼らを対象とする犯罪への公平な法的処置を確保すること、これによって青少年を保護することは大人の義務である。要になるのが私たちが持つ「同意」の理解を見直す効率的な話し合いならば、その第一歩は被害者・当事者と専門家の声に耳を傾け、それを広めることではないだろうか。

では、あなたはどう考えますか?

性的同意年齢が引き上げられるべきだと思いますか?だとしたら、なぜですか?

現在の「強制モデル」の刑法が性暴力に効果的に対処できていると思いますか?

現在、法律と性教育がうまく重なり合っていると思いますか?日本の未成年は保護、そしてエンパワーされているのでしょうか?

ぜひ、自分の考えを伝えてください。声を上げることをお忘れなく!

刑法の性犯罪条項

(強制わいせつ)

第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

(強制性交等)

第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛こう門性交又は口腔くう性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)

第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。

 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

(監護者わいせつ及び監護者性交等)

第百七十九条 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。

 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による。

References

  1. 「50代が14歳と性交」立憲本多議員の発言が物議を呼んだ性交同意年齢の刑法改正議論 法務省の検討会での議論と問題の発言|ゲスト:島岡まなさん(6/16) #ポリタスTV
  2. 刑法
  3. 1 児童福祉法(昭和二十二年法律第百六十四号)(抄) 最終改正:平成二十三年八月三十日法
  4. 都道府県青少年保護育成条例集(平成20年12月1日現在)
  5. 性犯罪に関する刑法~110年ぶりの改正と残された課題
  6. 一般社団法人Spring ENGLISH
  7. 見直そう!刑法性犯罪
  8. Netherlands Criminal Code
  9. Convention on the Rights of the Child
  10. 中学校学習指導要領解説 保健体育編
  11. 一般社団法人パリテ・アカデミー | Academy for Gender Parity