痴漢被害者が声を上げる今

Written by Johann Fleuri

Translated by 大島アイシェ遥

最近Digi Policeが主に電車で起こる痴漢被害を防ぐ新アプリを導入した。たった数日のうちに237,000回ダウンロードされた。2017年に佐々木くみさんは滞在先であるパリでフランス語の本を執筆した。 彼女は一人で通学する少女らにとって日本の電車が悪夢になりかねないことを声を上げて非難したかった。

日本に住んでいる誰もが「痴漢(ちかん)」という言葉を聞いたことがあるだろう。若い女性、大抵は高校制服を着た十代の若者に性的暴行を加えるため混雑した電車に乗り込む男たちの事だ。その犠牲者の一人である30代の女性が「佐々木くみ」というペンネームのもとで今彼らを告発している。2017年10月にフランスで出版された本の中で彼女は中学そして高校の通学に使っていた山手線でほぼ毎日受けた何百もの暴行について書いている。

午前8時30分に通勤・通学は始まる。そこから一時間ほどは東京のホットスポットを巡る山手線が完全に満員になる。その混雑度は駅の係員が扉が閉まるため文字通り乗客を車両に押し込まなければならないほどである。

20年前、私立学校に通うために佐々木くみさんは毎日この山手線に乗っていた。 それまで両親と弟と一緒に香港に住んでいた当時の彼女は東京にまだ馴染めていなかった。山手線で初めて痴漢に暴行を受けた時、彼女は重要な試験を受けに行く途中だった。 歳はわずか12歳、2ヶ月、24日だった。

彼女は今でも暴行を鮮やかに思い出すことがある。「それは7分間続きました。」しかし幼い彼女には永遠のように感じられた。「彼は親指で私の胸に触りました。最初は満員電車の密な空間の中での事故だと思いましたが彼は決してその指をどけなかった、 私に触ったままのその指は動かなかったのです。しばらくしたら彼は私のスカートの中に手を入れて来ました。 恐ろしかった。」

学校に到着してからも膝は震えっぱなしだった。すぐに先生に相談しに行ったが「先生は完全に無反応でした。」夕方、今度は母親に打ち明けたてみたが母親は「私が言おうとしていることを理解しませんでした。」 彼女はその後人に話すことをあきらめた。

年月が経ち、痴漢をますます頻繁に受けるようになった。フランスで落ち着いた今、書いた本を通して18歳になるまでほとんど毎日黙って耐えなければならなかった暴行を詳しく述べている。暴行のほとんどは電車の中で起こったが時に路上でも起こった。

「こんなこともありました。電車を降りると痴漢が後をつけてきました。 彼は私の後ろを歩き続け、一緒にどこかへ行こうと招きました。 自分が住む場所を知られてしまう、いつでも私に会いに来ることが出来てしまうことがとても怖かった。」しばらくすると男はついてくるのをやめたが彼女の心はもう既に少し壊れかけていた。 ある時は痴漢が電車を降りると同時に彼女と目を合わせて「ありがとう」と言った。

「私は悲鳴を上げたかった。 何のお礼?私は同意なんてしていないのに。」

ある朝、佐々木さんは死ぬことを考えた。 ただすべてが終わることを望んでいた彼女は長年にわたって激しい苦痛の現場でもあった列車に飛び込む覚悟を持っていた。「その時、学校の友達が私に話しかけてきたのです。 彼女が私がやろうとしていたことに気づいていたかどうかは今でも分からない。」

佐々木くみさんは現在30代。 ここ10年ほど住んでいるパリと東京を渡り歩いて生活を送っている。日本語を話すフランス人の小説家と共同執筆によって自分の身に起こった事を言葉に出せるまで約20年が経過していた。

「私は子供の頃に自分に起こった事について話すことによって、物事を変えようとする覚悟ができています。」と佐々木さんは言う。「世間では痴漢は単に若い女の子のスカートに触れるのが好きなフェティシストだと思われる傾向がありますが、彼らは法的措置を受けるべき性犯罪者です。」

「確信できるのは一つ。」と彼女は言い足す。「山手線の現状は今でも何も変わっていなこと。」

2018年夏に出版された「男が痴漢になる理由」の著者、斉藤章佳はこれを確認している。斉藤さんが勤務する東京都大田区の依存症専門の大森榎本クリニックでは、倒錯を直したい痴漢のためのプログラムを運営しています。 12年の間に3200人以上の痴漢患者を受け入れ、施設の容量が限られているため申請を拒否しなければならなかったことがあると言う。

斎藤さん曰く典型的な痴漢はごく普通のサラリーマンであり、結婚していて子持ち、学士号を持っている。通常は会社内で最も優秀な従業員そして最も思いやりのある夫、完璧なパパと考えられています。「しかしそんな彼は電車に乗ると変わります。」

自分の力ではどうにもならないストレスの多い疲れる日々が続く生活に苛立っている彼らは「誤って女性の手に触れたことを運のいい出来事の様にかんじてしまう。」これは彼らの一部にとってもはや制御することができない一連の暴行の始まりなのだ。依存症になっている。 最も極端なケースでは20人ほどの女性を暴行するために1日を列車を渡り歩いて過ごす人がいるそうだ。 そして彼らが標的とするものは最も弱い立場にあり傷つきやすい人たちだ。」

斉藤さんは痴漢現象が90年代以降劇的に増加したと主張する。 「私たちのクリニックは国で例がみられるセックス依存症、仕事依存症、アルコール依存症、拒食症、過食症などとあらゆる依存症を専門としています。その中で痴漢の数は他のどの種類の依存者をもはるかに上回っています。」

斎藤さんは日本に1万人ほどの痴漢がいると推測していて、彼らが主に東京、大阪、名古屋、福岡、札幌などといった大都市に集中しているとみている。それは市民が日常的に混雑した電車に乗るよう強いられている場所だ。

「以前の痴漢というものは路上に出るものだった。」と斎藤さんは言う。「そして現代の混雑した電車の中でできるほど、慎重に妄想を実現することができなかった。」

女性被害者のほとんどは沈黙を選ぶ。「恥ずかしいのです。」と佐々木クミさんは説明する。そんなことを公然と語る女の子は日本社会から自ら自分に屈辱を与えるとみなされ、汚れたもの扱いされる。「人生が終わってしまった残念な人みたい扱われ、もう結婚相手も見つからないだろうなどと言われる。」

問題の原因を求めて佐々木さんは公立学校とは対照的に私立学校があまり共学教育を押さない方針だと指摘している。「多くの10代の若者は、異性について抱く多くの質問に答えを受け取ることなくして成長します。私の場合そうだった。」

そんな情報の真空状態の中、商業的売り物が性的親密さに関する教育の場になってしまう。漫画、映画、無料アクセスのインターネットを通じて若者は日常的にポルノにさらされる。「高校生の頃、私は愛し合うことやセクシュアリティについて何も知りませんでしたが、エスコートとの1時間の値段を知っていました。」と彼女は思い出す。

「痴漢が女子高生を襲うのは、日本で女子高生が無垢な純粋さと処女であることの象徴とされてしまっているから」と彼女は考えている。「女子高生の制服にまつわるファンタジーはこれに関係していると思います。」

この問題を認識しているJRや通勤路線のその他の事業者は、大阪をはじめとする日本最大の都市で女性専用車を導入した。1912年以来存在しているこのシステムだが、すべての守られるべき人に行き届いていない。「あまりにも駅に人が多いので、女性専用の車に行きづらいこともあります」と佐々木クミさんは言う。「それ以前にすべての女性利用者が乗車するのに足りる車両の数がありません。」

東京警視庁と東日本旅客鉄道の調査によると20歳から30歳の若い女性の3分の2が電車内で痴漢されたと報告している。さらに悪いことに混雑中に痴漢を捕まえて起訴することが難しいことだ。

故に佐々木クミさんは未だに山手線に乗ると再び「12歳の頃の恐怖」を感じ続けている。

* 最初にNumber One Shimbun, FCCJ にて掲載 

http://www.fccj.or.jp/number-1-shimbun/item/1024-a-one-time-victim-raises-her-voice-against-chikan.html

イラスト:  佐々木くみ (「Tchikan」より一部抜粋)