【要望書】小田急小田原線の電車内で起きた刺傷事件の報道内容に関する要望

一般社団法人Voice Up Japanでは、ジェンダー、セクシュアリティー、国籍、宗教問わず、平等な権利を有する社会、そして誰もが声をあげられる社会を目指して活動しており、【ジェンダーを理由に起こる暴力】(Gender-Based Violence)や【女性に対する暴力】(Violence against women)の撤廃もゴールの一つに掲げて活動をしております。

2021年8月6日小田急小田原線の電車内で起きた刺傷事件は、女性を狙ったヘイトクライムであるにもかかわらず、複数の報道機関が、「無差別殺人未遂」や「幸せそうな人を狙った事件」という報道をしていた為、以下の報道機関に要望書を送りました。ただ、女性を狙ったヘイトクライムやフェミサイドは、メディアや報道機関だけで解決される問題では無いため、今後も政府や警察などの公的機関にも、訴えを続けていく方針です。

報道機関一覧 (8月13日 21時更新)
毎日新聞
日本経済新聞
読売新聞
産経新聞
日本テレビ
TBS NEWS
テレ朝ニュース
FNN
文春オンライン
まいどなニュース
朝日新聞digital
FRIDAY digital
日刊スポーツ
時事ドットコム
NHK

返答一覧

産経新聞様からは「担当者に意見を伝える」と連絡をいただきました。

2021年8月13日 / 各報道機関の皆様

一般社団法人Voice Up Japan

小田急小田原線の電車内で起きた刺傷事件の報道内容に関する要望

 8月6日小田急小田原線の電車内で起きた刺傷事件を、私たちは女性を狙ったヘイトクライムであると考え、各報道機関に対し本事件を「ヘイトクライム」として報道することを要望します。

 このような女性を対象としたヘイトクライムは、女性を対象とした殺害行為である「フェミサイド」に繋がる可能性があります。フェミサイドとは、世界保健機関の定義によると、一般的に女性が女性であることを理由に意図的に殺害されることとされていますが、広義では、女性や少女への殺害すべてが含まれます。

 本事件に関して報道機関が「女性に対するヘイトクライム」や「フェミサイド」でなく、「無差別の殺人未遂」と表現し、さらに「幸せそうな『女性』」ではなく「幸せそうな『人』」と報道しました。これらは、対象が女性であることを曖昧にし、女性に対するヘイトクライムであったことを無視した報道です。

 そこで、私たちは報道機関に公平な報道を求めます。報道機関が社会に与える影響は大きく、報道で用いられる言葉には事件を社会問題として取り上げる力があり、人々に問題意識を持たせることに繋がります。2011年にヨーロッパ諸国が女性・少女への暴力を失くすために発足したイスタンブール条約では、女性・少女への暴力を人権侵害行為とし、女性・少女を保護する法律を作成することだけに留まらず、報道機関に女性・少女への暴力に関する情報を周知させることも義務付けています。さらに、女性に対する暴力の防止、処罰、根絶に関する米国間条約で「メディアは、国民に対して誠実な教育の役目を果たすほか、男女平等を促し、女性に対する暴力の撤廃を促進するべき」と強調されているように、メディアには男女平等に寄与することができる影響力があります。そして、今、日本でも差別的思考・固定概念に囚われず、被害者の女性を尊重する報道が求められています。

 一般社団法人日本民間放送報道指針の2. 報道姿勢(3)によると、「公平な報道は、報道活動に従事する放送人が常に公平を意識し、努力することによってしか達成できない。取材・報道対象の選択から伝え方まで、できるだけ多様な意見を考慮し、多角的な報道を心掛ける。」とあります。報道機関が情報を矮小化せずに正しい表現を用い、正しい情報を正しく伝えることがメディアの責任であり、それが視聴者に対して誠実な報道と言えると、私たちは訴えたいのです。

 上記の通り、本事件に関する報道で「『人』を殺したかった」と無差別殺人未遂であるかのような表現を取り消し、女性の殺害を意図したという事実、女性に対するヘイトクライムであったことを報道してください。私たちは報道機関が公平な報道をされ、責任を果たされることを、ここに要望します。