「性的同意」のない言動は性暴力 〜首都圏3大学における大学生の性的同意の認知度と性に関する被害、目撃等のアンケート結果〜 

<大学関係者の皆様に性的同意に係る情報提供をお願いします>

性的同意プロジェクトチーム

小川 優

御礼】

 このたびは、当団体の性的同意プロジェクトが行いましたアンケートをご回答いただきました皆様、パイロット版のアンケートにフィードバックを下さった方々、アンケートを広めてくださった皆様、要望書に賛同してくださった皆様、ご協力いただきまして誠にありがとうございました。お一人おひとりの回答を全て拝見しました。苦しい思いを抱えながら回答してくださった方々もたくさんいらっしゃり、そのようなご心境の中、私たちのプロジェクトにご協力いただきましたこと、感謝で胸が熱くなります。ご経験を拝見する中で、性的同意プロジェクトチーム一同、とても心を痛めました。様々なバックグラウンドの方々からのご回答もございましたが、今回は、性的同意に係る情報提供を大学に実施していただくようお願いしております首都圏三大学(国際基督教大学関係者、明治大学関係者、早稲田大学関係者)の皆様の回答結果を、こちらでご報告致します。1,294名の皆様からのご経験・貴重なご意見を共有いただきましたこと、心より御礼申し上げます。

 また、各大学への要望書にご賛同くださいました方、要望書をご覧くださった方、建設的なフィードバックをくださった方、ご協力いただきまして、誠にありがとうございました。皆様お一人お一人に支えられて、私たちはここまでくることができました。心より御礼申し上げます。

※ 以下、引き続き読まれる場合、フラッシュバックの可能性がございますので、気分を害された場合はすぐに手を止めていただき、ご自身の安全を優先してください。

大学生ならみんなに「性的同意」を知っていてもらいたい

 私の英国大学院生生活がはじまったとき、入学オリエンテーションであるビデオが紹介されました。「もしセックスの同意についてピンときていなければ、誰かに紅茶を淹れることをイメージしてみよう」という一言からはじまるビデオでした。「Tea Consent 」(*1)という紅茶と同意について説明するビデオをみて衝撃を受けました。わかりやすくて面白かったのもそうなのですが、「私たちもう大学生なのに、なんであえてオリエンテーションでこれを見させられているんだろう」と思ったからです。

 振り返ると、義務教育の中で学んだことはセックスと月経についてでしたが、それ以前に安心で安全な性生活をおくるために大変基本的な概念「同意」の重要性を学ぶ機会はありませんでした。そして、帰国後、私の尊敬する後輩が「日本の大学って性的同意について触れないですよね」と言った時に、私ははっとしました。そのことを今まで意識したことがなかったですし、「大学生で性的同意について知る機会がないのはおかしい」と率直に思いました。

なぜ性的同意を知っていることが大事なのか

 やはり、安心で安全な性生活を送るには、被害者にも加害者にもならないように気をつけられるということ、今まで又は今後何か同意のない性的言動を受けた場合してしまった場合に、それを認識し無理のない範囲で他の信頼できる人に説明・相談できるようになるために知識として持っていることは大事だと考えます。

 日本の性的同意年齢は13歳です。性的同意の概念は、本来であれば性的同意年齢の13歳までには知っておくべきなのですが、学校教育では教えてもらえません。2017年の刑法改正がなされた後も深刻な課題が残っています(*2)。被害に遭えば、身も心も深い傷を負います。大学生は性的同意年齢を超えていますし、現在の法律で守ってもらえる可能性は高くありませんし、そもそも守ってもらえたからといって傷が元通りになることはありません。それでも被害に遭うのは突然です。抵抗できない何らかの事情がある場合もあります。もちろん、故意のある悪質な加害者も存在しますが、無知がために加害者になってしまうケースもあります。そんなことが一切起こらないようにする必要があると思います。

 私は大学生のころ、性的同意の概念を知らない時に性暴力に遭いました。自分ですぐに性暴力として認識できるものも、認識するのに時間がかかったものもありましたが、性暴力に遭った時以来、フラッシュバックで私にとって情熱だったジェンダーに関する社会活動もできなくなり、挑戦したいキャリアの選択肢も狭まり、私生活、人間関係にも影響がありました。二次被害が怖くて相談できませんでした。でも、もし私が性的同意に係る情報を知っていたら、過去にあった状況をうまく避けられたかもしれないと思いました。そして、性的同意を知らない自分が、無知であったために大好きなパートナーに積極的に同意を取らなかった経験も思い出しました。私は無知が故に加害してしまった経験もあったのではないかと思うとゾッとします。加害者になっても被害者になっても辛いですし、それを相談することはそんなに簡単なことじゃないと心からそう思います。こんな経験を誰にもしてほしくないと思いました。そして、この性的同意のプロジェクトをはじめました。

【性的同意のプロジェクト】

 このプロジェクトのミッションは、大学に性的同意に係る情報提供をしてもらうことです。特に現段階では、入学時のオリエンテーションなどで、全学年の学生が性的同意に係る基礎知識を得られる機会を大学につくっていただくことを目標としています。2020年11月から、当団体の大学支部である国際基督教大学支部、明治大学支部、早稲田大学支部のメンバーとチーム一丸となって、また各支部のリソースやネットワークを各々活かしながら活動しています。性的同意とは何か、アクティブバイスタンダーとは、被害にあったら何の情報が必要なのか議論を重ねてきました。

 警察に届け出たり大学の相談室は使っていないけど個別に相談してくれる友人がいる、やはりどこか表立たないところでそういった被害の話を聞く、性被害がキャンパスで、また大学関係者間で発生していることを知っているチームメンバーもいました。各大学の学生が性的同意を正しく認知していて、性暴力に遭っておらず、目撃することもなく、性暴力のない安全なキャンパスにいるのであれば、そもそもそういった性的同意に係る教育や努力はそこまで必要ではないのかもしれませんが、そういった被害経験がどこか大学が聞かないところで語られている現実があったので、以下のアンケートを実施することに決めました。(現在、そのアンケート結果を元に性的同意に係る情報提供を各大学に要望しています。)

アンケートの実施内容や結果はこちらからご確認いただけます。

首都圏三大学における性的同意、性に関する被害・目撃経験等に関するアンケート

アンケートでわかった6つの重要なこと

  1. 性的同意について理解できていない方が半数以上。 

 アンケートで性的同意について聞いたことがあるか、性的同意をとるための行動をしてきたかどうかの認知度を問う質問(設問3)では、「定義と行動を説明できるし性的同意をとるための行動をしている又はしてきた」と回答した人は全体の約14%で、定義を説明できると回答したのは約64%でした。性的同意の言葉の認知度が広がっているものの、行動できている人は比較的少ないことがわかりました。

 また、別の質問(設問4)で、性的同意が成立していると考えられる状況を回答してもらいました。回答者全体の約43%が性的同意を理解していると言えたのですが、他半数以上の回答者が性的同意が成立していない状況を性的同意が成立していると勘違いしていることがわかりました。最も多い回答で「付き合っている、または夫婦関係にある」(約20%)、次に「相手が「家・ホテルにお泊まりをする」(約14%)、そして「相手が「イヤ」と言わなかった」(約8%)場合は同意が成立していると思っている回答がありました。これらは性的同意が成立している状況といえません。

 さらに、上記の設問で「定義と行動を説明できるし性的同意をとるための行動をしている又はしてきた」と回答した回答者の内、約25%は性的同意が成立していない項目を選択していたことがわかりました。性暴力をなくすための正しい知識の底上げと徹底が必要です。

  1. 同意のないセックスを経験した方は36名。言葉による被害が一番多い。

 性被害の経験と目撃経験を問う質問(設問5・7)では、入学・勤務してから今までそういった経験はなかったとの回答が最多で、被害にあったことのない回答者が約43%、目撃したことがない回答者が約54%でした。半数以上の回答者がなんらかの被害に遭っていたことがわかりました。その中でも「あなたの同意なしにセックスをする」との回答は全体の約2%で、36名の回答者がその被害を経験されていました。1人でもそういった経験をされた方がいることに心が痛みました。また、最も多い被害は「性差別・性的なコメントや質問、冗談をいう」という回答、その次に「性・ジェンダー・セクシュアリティをもとに根拠のない決めつけをする」との回答で、言葉による被害が多くみられました。これは、割合に前後差はありますが、目撃したことのある回答でも同様の結果でした。

 性差別や性的な冗談が許されないこととして捉えられていない可能性があること、そしてジェンダーに関する知識が少ない大学関係者がいる傾向があることがわかりました。さらに、歓迎されていないスキンシップ(ボディーコンタクト)や同意のないセックスが発生してしまっているのは、あってはならないことであり、性暴力のないキャンパスカルチャーとはいえず必ず改善がなされるべき点であると考えます。

 また、加害者の傾向では男性と思われる方、被害者の傾向では女性と思われる方が多くいました(設問8~11)。加害者、被害者は大学生・大学院生との回答が多くありましたが、教職員・研究員が加害者であったとの回答は約7%、教職員・研究員が被害者であったとの回答は約2%もありました。学生だけでなく、教職員・研究員にも性的同意、性被害に関する知識を向上する研修が行われる必要があります。

  1. 被害を目撃した時に「被害をとめようと介入した」との回答者は全体の4分の1

 誰かが被害にあっている場面を目撃した時に、介入できない又はしないと回答した人が大半を占めることがわかりました(設問12)。半数以上の回答者が「行動したことはないが、介入方法を知っていれば行動にうつすと思う」と回答し、アクティブバイスタンダーについての知識の共有をすることで性暴力を防ぐために行動できる人が増える可能性が考えられました。

  1. 回答者の約74%が性被害にあった際、どこに通報・相談すればいいのか分からない

 全体の回答者の約74%が大学内での通報または相談先を知らないことから、大学内で被害を経験する又は目撃しても大学内で性被害に関連した情報が集まらない可能性が高いことが考えられました。そういった情報が集まらないことで、性暴力が起きる原因の改善ができないことが危惧されます。また、被害を経験した方や目撃してしまった方、又は加害してしまった当事者で精神的な身体的な回復を希望する方への手立てが狭まれている可能性も高く、決して望ましい状態ではありません。実際に、性被害にあった際に大学に通報又は相談機関に訪ねた回答者は約5%でした(設問14)。

  1. 被害を受けてもそれが被害だと認識していない人がいる

 性被害の経験を問う質問(設問5)のあと、被害を通報した経験があるかを問う質問(設問14)があり、そこで「被害に遭遇したことがない」と回答した回答者がいました。大学入学・所属して以降、今まで大学関係者(学生、教職員、卒業生など)の誰かによって性被害にあっていたのに、それを性被害と認識していない回答者が全体で約20%いることが分かりました。このアンケートは日本語と英語で質問していますが、言語別の回答を分析すると、日本語での回答者は約75%、英語での回答者は約25%、被害にあっていても被害と捉えていないことが分かりました。性被害とは何なのかといった知識を広げる必要性があると考えられました。

 また、被害に遭った回答者の中で相談・通報しなかった理由で最も多かったのが、「被害のスケールが小さいと判断し相談する必要がないと思ったから」で、英語での回答では「通報・相談するところを知らなかったから」でした。通報・相談先に関する情報の周知が言語によって差が出ているの可能性があることがわかりました。他にも「加害者が友人、親しい方だったので、ためらいがあったから」、「加害者が教授だったので、ためらいがあったから」といった加害者との人間関係によってためらいを感じたという声も上がりました。

  1. ほとんどの回答者が性暴力や性差別、セクハラに関する情報を求めている

 約96%の回答者が大学が性差別や、性暴力、セクシュアルハラスメントに関連する知識・情報を伝えることを適切だと思う又は大学にそのような情報共有してほしいと思っていることがわかりました(設問18)。具体的な内容として提案されたのは、ハラスメント等に関する知識や事例、同意・性的同意に関する知識、被害後にどのように助けを求めると良いのかという情報、介入方法や被害中での助けの求め方、性の多様性に関する情報等でした(設問19)。

大学で性的同意に係る情報提供をお願いします

 ここまで読んでくださった方々には驚かれた方も、複雑な気持ちになった方も、そんなものかと思われた方もいるかもしれません。一度性被害に遭うことは、精神的にも身体的にもダメージを受けます。それは一瞬で終わることではありません。この先ずっと頻繁に思い出してしまうことになるかもしれませんし、あることをきっかけに思い出してしまうかもしれません。どのようなフラッシュバックを経験するのか、その精神的な負担の大きさもそれぞれで、決して見えるものではありません。だからこそ、軽視されてはいけないことだと考えます。大学の教職員関係者の皆様、性的同意に係る情報提供をお願いします。誰一人、加害者にも被害者にもならないキャンパス作りをお願いしたいのです。

<参考資料>

*1 英語で試聴をご希望の場合は「Tea Consent」(https://www.youtube.com/watch?v=oQbei5JGiT8&t=23s )を、日本語で試聴をご希望の場合は「Consent – it’s simple as tea(日本語版)」(https://www.youtube.com/watch?v=-cxMZM3bWy0 )を参考までにご覧ください。なお、著者のRACHEL BRIANさんのホームページはこちらです。(https://www.rachelannbrian.com/

*2 一般社団法人 Spring(2018年10月)「見直そう!刑法性犯罪〜性被害当事者の観点から〜」http://spring-voice.org/wp-content/themes/theme-bones-master/library/pdf/sexcrime.pdf