Written by 尾崎 淳一 / Translated to English by Luca
愛知県に拠点をおくNPO法人ASTA(アスタ)は、行政、教育関係者、保護者、そしてや生徒たちを対象に、年間およそ80回ほど「LGBTQ+出張授業」というセクシャルマイノリティに関する知識を学ぶイベントを主催している。最近は、オンライン配信での授業や県外に出向くなど、活動を活発的に展開中だ。
「出張授業」の他にも、企業や自治体からの依頼を受け、LGBTQ+をテーマにした講演会、LGBTQ+の子を持つ親を対象とした保護者会、当事者が偏見の目を恐れず祝える成人式、また「名古屋あおぞら部」という高校生や大学生などのユースがゆったりとお喋りをする会も運営している。
「教育のカリキュラムにLGBTQ+の学びを入れたい」。そんな想いからASTAは、4年前に名古屋市内で活動を始めたという。
ASTAの名前の由来は「アスタリスク」。日本語では「 *(アスタリスク) 」を星印とも言う。コンピュータ言語や、エクセルなどでも「乗算」の意味で使われる。「それぞれの想いをかけ算しよう!」といった気持ちを込めて「ASTA」と名付けたそうだ。
今回、Voice Up Japanは、ASTAの「LGBTQ+出張オンライン授業」に参加し、共同代表である松岡成子さん、そしてASTAのメンバーの方々から、多様性のある社会を目指す上で欠かせないLGBTQ+教育、またアライ(Ally)の重要性について話を聞いた。
ASTAが提案するアライシップとは?
ASTAを立ち上げるきっかけとして、松岡さん(55)は、我が子が20歳の時にゲイであることをカミングアウトをした時の経験について触れた。LGBTQ+出張授業では、そんな自身の経験談を交えて行われる。
松岡さんが息子にカミングアウトされた時、「ずっと一人で悩んでたの?何か学校とかで嫌なこととか、辛かったこととかなかった?」と聞いた。
そして返ってきた息子の言葉にショックを受けた。「お母さんが一番辛かった。いつも『彼女できた?』って聞いてきたよね。一回でいいから、『好きな人できた?』って聞いて欲しかった」
LGBTQ+のことを全く知らずに、子育てをしてきた。息子が「きれいなものに興味を持つ」とか、「戦隊ヒーローのおもちゃなどにあまり興味を持たない」などということには、なんとなく気づいていたものの、いざゲイだと打ち明けられ、まずLGBTQ+についての知識を一から学び始めたという。
その過程で知ったのが、数多くいる「アライ」の存在である。英語の「Ally」が語源のこの言葉は、当事者側に寄り添いながら、セクシャルマイノリティについての理解を広めようと支援を惜しまない「LGBTQ+同盟者」を意味する。
「ASTAが考えるアライは、『誰もが誰かのアライになれる』ということ」。松岡さんはASTAが掲げるコンセプトを授業でこう説明した。「レズビアンはトランスジェンダーのアライになれる。LGBTは耳の聞こえないの方のアライになれる。車椅子を使っている人のアライになれる。上から手を差し伸べる支援でなく、下から支えるサポーターでもない。横に立ち、寄り添うのが『アライ』だと思います」
LGBTQ+出張授業では、基礎知識編として、LGBTQ+用語のレッスンから始まり、セクシャルマイノリティの人口が占める割合(「左利きの人、血液型がAB型の人とほぼ同じ割合と言われている」)、そして「日本の6大名字である『鈴木』『佐藤』『田中』『高橋』『伊藤』『渡辺』より多い」といった、取っ付きやすい事柄から説明する。そして、授業参加者に「恐らく、ここのほぼ全員が、この6大名字を持つ友人、知人がいらっしゃると思います」と語りかけるのだ。
なるほど、僕自身にもこれら全ての名字を持つ友人たちがいる。それくらいLGBTQ+の人々が必ず身近なところにいると改めて気づかされ、思わずうなずいてしまった。
また、「LGBTQ+当事者が周りにはいない」とよく言われることについて、松岡さんはこう語った。
「LGBTQ+当事者は、周りにいないのではなく、『見えていない』だけなのです」
その理由は、きっと当事者ではない人が、「LGBTQ+について知らない」「LGBTQ+は周りにはいない」、という先入観に左右され、無意識な言動で、知らぬうちにLGBTQ+の方たちを傷つけているのでは、と松岡さんは指摘する。「そうすると、『自分がLGBTQ+だと打ち明けても、受け入れられないかもしれない。だからカミングアウトをしない』。そんなサイクルに陥っているのが現状です。LGBTQ+である人の中には『言わない、のではなく言えない』もしくは『言いたくないので、言わない』という人たちもいるのです」
【教職員研修】
そして、LGBTQ+について知識が全くない親が、突然、何の心の準備のない状態でカミングアウトされた時、子供に返してしまった言葉の例を挙げた。
・産まなきゃよかった。
・やめてよ、気のせいよ!気持ち悪い!
・産んでごめんね。
・他の家族には秘密にして。
・治るの?
・手術をするなら、家から出てって!
そう発言した本人たちは、突然のカミングアウトで動転していたため、「そんな事言ったかしら?」と覚えていないケースもよくあるという。
僕が参加した「LGBTQ+出張オンライン授業」には教育関係者が多くいた。参加したある幼稚園の保育士は、授業に加わった理由をこのように述べた。「子供たちに多種多様な生き方を尊重した教育をしたい。大人が子供に『考え』を(無理に)植え付けてしまっていると思う。子供が選ぶ遊び方で、自由に楽しく、のびのびとした教育の仕方を考えています」
そこで、ASTAのメンバーの一人が、その保育士に「ある先生から聞いた話なのですが」と前置きをし、こう答えた。
「男の子が紫色のリボンをつけていた時、周りの女の子が『男の子なのにおかしい』とその子に言った。そうすると、その子のお母さんは、『リボンを外さなくてはならないのはうちの子ですか?』と先生に聞いたそうです。先生たちは答えが見つからなかったと言っていました。本当は多様な人たちがいることを伝える、絶好のチャンスだったんだと思います。ズボン、リボン、おままごと、ブロック遊び、ジャングルジム。自分が好きなことをダメだと言われると、それを隠し始めるのも幼稚園の頃から。自分が好きなことを好きと言える子供。それを認められる大人。そんな社会にしたいです」
【出張PTA授業の様子】
活動をするなかでの、メンバーの想い
同団体に名を連ねるメンバーたちに、「活動の原動力になっている想いは?」と質問を投げかけてみた。
・「アライをもっともっと増やしたい。子供に限らず、大人たちも、自分を肯定できる、そのままでいい、そう思えるような世の中になるといいなぁ、と思います」(テルママ/59歳)
・「自分は元幼稚園の先生です。園の中でも、たくさんのジェンダーバイアスがあります。子供たちが、こんなにたくさんのジェンバーバイアスにまみれて生きているんです。まずは、先生たちにLGBTQ+について知ってもらいたい。そして、幼稚園児の出す「サイン」を教員、そして保護者にも、もっと知ってもらいたい」(まっこさん/31歳)
・「私は中学校の教師をしています。自分が悩んだ時と同じ歳の子を、同じように悩ませるようなことをしたくない。自分たちが教えた子供が成長した時、それをさらに広げられる人が増えること。そんなことを期待して活動しています」(ゆきな/44歳)
・「私ができることは『自分がロールモデルになること』、『子供がSOSを出した時に、正面から想いに向き合ってくれる大人や友人を増やしていくこと』だと思っています。性のあり方に関わらず、安心して生きられる社会にしたいです。」(やっち/25歳)
池に小石を投げたような感じ
最後に、活動をしている中で成果を感じる時はどんな時だったか、松岡さんに尋ねてみた。
「池に小石を投げた時に、小さな波紋がおきますよね。今はそんな気分です。波紋は間違いなく起きていると感じています。その波紋が少しずつ、少しずつですが、大きくなっていくことを願っています」
「最終的な目標は、赤ちゃんの6ヶ月健診、3歳児健診の際に『LGBTQ+』『DV』『貧困』『障害』『差別』など、子供を育てていく上で、『自分がそうなるかもしれない』『自分の子供がそうかもしれない』『自分の子供の友達がそうかもしれない』、そういった、親として子供を育てる際に、直面するかもしれない場面について考える機会を持って欲しい。自分が子育て中に知っていたら、と思うことを、学んでもらう機会を作りたい。乳幼児を持つほとんどの親は保健所での健診を受ける。だからこそ、赤ちゃんの健診という場面に、そういったプログラムを取り入れてもらう事ができたら、私たちの活動が役割を果たした、と感じることができると思う。」
そう、松岡さんは語った。
僕自身もゲイの当事者として、これから育っていく子供や若者たちに、自分のことを「おかしい」「異常だ」などと悩んだり、苦しんでほしくない。そう切実に伝えたい。「多様性は豊かさであり、いろんな人がいていいんだ」と感じながら育っていける社会に、そして差別的な言動に対しては絶対に「ダメだ」と誰もが言える社会になる日が早く来て欲しいと願ってやまない。
今、日本に必要とされる「ダイバーシティ&インクルージョン」を実現させるためには、実は、ASTAの目指している「アライがいる社会」が求められるのではないだろうか。
NPO法人ASTA 公式サイト:https://asta.themedia.jp/